【書評】掲載禁止 撮影現場 / 封印された作品【感想+ネタバレあり】

ホラー作家 長江俊和さんが描く8つの短編集、和風ホラー特有の真綿で首を締めるような感覚ではなく、ページをめくるごとに『終わり』に近づくジェットコースターのような感覚を味わえます。
帯にもあるように『心臓の弱い方は注意』してください。
おすすめは夜寝る前に1つお話を読むことです。
想像力豊かな方は、夢の中で物語のその後が体験できるかもしれません。
例の支店
例の支店というタイトルを見て、何か会社絡みの話なのかな?と思ったら、まさかのミスリードでした。
霊 の 視 点
タイトルの時点で答えが出ているお話で、2週目を読むと登場人物2人ではなく、第三者視点であったことがよくわかる設計になっています!
短編集最初の話として、恐怖を目に見えるかたちとして表現することで、読者の心をギュッと掴んでくるのが憎いですね笑
ルレの風に吹かれて
ルレってどこの国だろう?
なんとなくペルーのような高地にある自然豊かな国なのかな、という気持ちで読み進めていたら…。
最初に主人公と子供が歩いているシーンから始まりますが、子供がそれなりに大きいのに何故か抱っこ紐をしていると描写があり、ん?と思ったところから疑心暗鬼のまま最後まで読み切りました。
最後に答え合わせで、登場した地名と人物名が列記されており、逆から読むと主人公は手足を切断されてしまい、食べられているという真実が分かります。
哲学的ゾンビの殺人
近未来SF的な恐怖を感じる作品です。
これまでのホラー作品とは一風変わっており、どことなく海外的な雰囲気が感じ取れました。
作品の世界がこのまま継続していけば、私たち人類は気づいた時には全滅しているというポストアポカリプス的な恐怖が味わえます。
『哲学的ゾンビ』という言葉をこの作品で初めて知りましたが、私たちが生きている現実でも哲学的ゾンビが絡んだ事件が起きていると聞いて驚きました。
この閉塞感漂う世界で起きた
どこまでいっても世界は絶望的である。
人生上手くいかず、自暴自棄になり強盗をした主人公に優しく接してくれる住人に、強い不信感を抱きながらページをめくると…。
強盗した主人公は毒入りの弁当で命を落とし、殺人癖の娘を持つ老夫婦は平穏な日常へ戻って終わり。
あまりにも救いが無い結末に思わず唸ってしまいました。

イップスの殺し屋
殺し屋視点から話が始まる本編ですが、殺し屋がまさかのイップスにより、富豪が寝ている時に仕事を実行することができなかった。
※イップスとは心の葛藤により、筋肉や神経細胞、脳細胞にまで影響を及ぼす心理的症状のことで、主にスポーツなどでいつもできることができなくなってしまうことです。
しかし、次の日に富豪が寝室で亡くなっているのが発見された。
容疑者は6人で、1人が探偵役として物語が進行していくが、まさかの残り5人全員がグルで、探偵役は最後に殺されてしまいます。
探偵役にとどめを刺したのは、イップスだった殺し屋で、この時にイップスを克服し、タイトル回収して終わりとなります。
イップスの殺し屋
撮影現場
映画撮影にリアルを求め、命を懸ける映画監督の話…ではなく、そんな映画監督の作品に出られる!と喜ぶ主人公の話です。
映画撮影の最中に殴られるシーンがあれば本当に殴り、殺されてしまうシーンがあれば本当に実行する…面白い作品をつくるためには『リアリティ』が必要だと言われますが、100%リアルな映画をつくる過程の裏で徐々に浸食される主人公の倫理観が恐怖を演出しています。
『深淵をのぞく時深淵もまたこちらをのぞいているのだ』という言葉があるように、深淵という狂気の映画監督を見続けた主人公は、深淵の仲間入りをしましたとさ、めでたしめでたし♪
リヨンとリヲン
生まれてすぐに引き離された双子を再び集めた村にリヨンとリヲンはいた。
二人は見た目も考えも全く一緒、思いが通じ合うから以心伝心。
隠している趣味も、もちろん同じ。
殺人癖のある双子は物語の最後に、村人たちを根絶やしにしてしまいました。
最後に見た綺麗な朝焼けはまるで二人を祝福しているようにも感じ、凄惨な話ながらも、モヤモヤすることなく読み通せる話でした。
カガヤワタルの恋人
短編集の最後を締めくくるのは『愛』をテーマにした作品です。
カガヤワタルはつきあう恋人たちが、毎回ストーカー被害にあうことに悩んでいた。
ストーカー被害について調べていくうちに、最初の恋人は命を落とし、二人目の恋人は謎の失踪を遂げる。
学生の時に知り合いだった女性から情報を手に入れようと、家を訪れればその女性は刺されて命を落とす。
まるで彼に関わる女性は運命によって排除されるかのように…。
新のストーカー、その正体はカガヤワタルの学生時代の友人でした。
カガヤワタルを手に入れる為、道徳も倫理も無視した狂気が描かれるラスト数ページは圧巻です。
ホラー小説なのに、恐怖よりも読了後の清々しさが印象的なお話に仕上がっています。

感想
長江俊和先生のファンになって数年が経ちました。
ホラー小説は好きだけど、読むと夢に出るので1年に1冊までにしていましたが、今回は禁を破り短編集である本書を購入!
正直な話、長編だからこそ表現できる和風ホラーな感じは、本書では感じられず少しがっかりしました。
ですが、短編集の中でも一押しの作品があります。
『カガヤワタルの恋人』です。
登場するストーカーの女性は『愛』の為に行動を起こしています。
これを見て感じたことは、『狂うほど愛されていて羨ましい』という嫉妬の感情でした。
『狂うほど愛されたいし、狂うほど愛したい』
そんな感情を胸に本書を閉じ、記事を書かせていただきました。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
また次の記事でお会いしましょう。
さようなら~